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人文学のエビデンス

人文学は答えのない問題を扱うと言われます。答えのない問題をどのように考えたらよいのか、その方法を提示するのが人文学の役割です。でもだからといって、人文学にはまったく正解がない、と考えることは間違いです。歴史的事実は存在しますし、過去の思想家や哲学者の考えも何かしらのものが確かにあったはずなのです。ですから私たちのユニットではまずオリジナルの復元と正しい理解を目指します。私たちにとってのエビデンスとは、碑文、写本などの一次資料、すなわちマテリアルです。
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これらをできるだけ正確に復元し、内容を理解するには、言語の習得のみならず広い知識と経験、深い考察を必要とします。社会的時代的背景を知らずに書かれていることを理解することはできません。研究者どおしの共同作業、議論も不可欠です。一人で行うより複数の眼で見る方が誤りが少なくなります。実験を重ねるように、検討を重ね、正解を導き出すのです。

しかしながら、その段階ですでに研究者の力量やさまざまな条件によって異なる意見が出る場合があります。手書き写本の判読不能な文字にぶつかったとき、私たちは外側からのエビデンス(他のテキストなど)を見つけ出し、妥当な読みを提示します。でもすべての研究者がそれに納得するとは限りません。別の可能性を提案することもあります。翻訳も同様です。同じ原文を異なったふうに翻訳することはしばしば起こるのです。つまり基礎作業の段階でも作業者の「解釈」にもとづく部分が出てきます。さらに思想内容の理解において、研究者の「解釈」は一通りではなく、私たちはいかにエビデンスをだし、自分の「解釈」の正しさを証明するか、常に競争もしているのです。これが私たちの研究成果が多くの場合、共著ではなく、単著で発表され、個人のオリジナルな「解釈」にもとづく単著の方が重んじられる理由です。しかし、一方で、他の人の賛同を得られない解釈は生き残れません。ほんとうに価値のある研究成果は、異分野の研究者にも一般社会にも理解できるものでなくてはなりません。100%証明可能な答えはありえないけれど限りなくそれに近づく、私たちが目指している研究成果とはそのようなものです。

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